『判例時報』最新号「弁護士懲戒制度の是正提案」の概要と素人の感想

『判例時報』2020年8月21日号特別寄稿「弁護士の懲戒処分に対する救済制度の違憲・違法性と是正策の提案」(阿部泰隆)
『判例時報』2020年8月21日号

「現在の弁護士懲戒制度は法治国家にふさわしくない」

 

ベリーベスト法律事務所弁護士に対する懲戒処分の審査請求人の代理人に就任した、阿部泰隆神戸大学名誉教授(行政法)による特別寄稿「弁護士の懲戒処分に対する救済制度の違憲・違法性と是正策の提案」を読みました。阿部名誉教授は、ふるさと納税訴訟では、泉佐野市の代理人として最高裁で逆転勝訴を勝ち取った方です。

 

行政法を専門とする阿部名誉教授の主な主張は「弁護士懲戒制度は行政法であるのに、行政法としては不備が多数あって、法治国家にふさわしいものではなく、違憲であり違法である」というものです。

 

具体的に阿部名誉教授は、現行法の範囲で「懲戒処分の業務停止期間中、依頼人との契約を解約させる理事会議決等を廃止する」「懲戒請求濫用対策として、簡易却下の運用を行う」「処分の効力は、単位弁護士会の議決段階でなく、確定して初めて生ずるようにする」「『品位』『非行』概念や処分裁量について基準を明示する」「懲戒委員会委員の選任に選考委員会を設置する」などの運用を提案しています。

加えて、法改正を行い、「綱紀委員会は検察官役、懲戒委員会は裁判官役となること」、「証人尋問や偽証罪の規定を置くこと」なども提案しています。

 

「身内に甘くならないよう自治を運用しなくてはいけない」

 

個人的には、阿部名誉教授が現在代理人を務めるベリーベスト法律事務所に対して下された東京弁護士会による懲戒処分は、あまりに不当な、そして政治的(派閥的)なレベルのものであると思います。そして懲戒(綱紀)審査のいい加減さは、個人的にも身に沁みています。阿部名誉教授の上記の主張も、それぞれその通りであるとも思います。弁護士会は、弁護士を懲戒する権限を、組織引き締めのために濫用している面があると思います。しかし、法曹ではない人間としては、あえて付け加えさせていただきたい内容もあります。

 

阿部名誉教授は「監督官庁が存在しない弁護士自治制度は、『士』業の中でも弁護士だけの特権である。代わりに弁護士会は、自治・自立・独立が独善・身内に甘くならないように、弁護士懲戒制度を適正に運用することが求められている」という趣旨のことを述べています。しかし文章を読む限り、現在の懲戒制度運用が身内に甘くなっているとの認識を持っておられるのかどうかはわかりません。

 

却下されて永遠に葬られる「一般人の声」

 

その点に言及しないのは、現在は不当な懲戒処分を受けたベリーベストの代理人という立場におられるからなのかもしれません。あるいは、今回は行政法という論点から弁護士懲戒制度を論じたからであるのかもしれません。しかし、ベリーベストに対する処分理由は非弁行為であり、法曹ではない人間にとっては、弁護士同士のコップの中の嵐に過ぎません。仮に自治制度としての懲戒制度がなくても、会の内規等によって同様の処分は下され得るでしょう。

 

ベリーベストの例のように、不当な懲戒処分を受ける弁護士がいるのは事実ですが、むしろ阿部名誉教授がいういい加減な懲戒制度によって、懲戒申請をしても却下され、弁護士会に対し強い不信感を抱いた「非法曹の人間」も多くいるのではないかと思います。弁護士とは違って、懲戒請求が却下されてしまえば、それ以上声をあげることは非常に困難です。そして、懲戒申請を却下された人たちが一度弁護士に対して抱いた不信感は、容易に回復しません。

 

懲戒制度とは、監督官庁が存在しない弁護士会において、懲戒申請をする人間(非法曹の人間)を弁護士自治を補助する立場に置く性質のものでもあるのですから、懲戒制度の運用について検討するのであれば、まずは一般の人の意見を聞くこともしていただきたいと思うのです。そうすれば、まずは「懲戒手続きや審査を公開すべき」などの、新たな基本的な論点も当然に出てくるのではないかと思います。そうしなければ、このままでは世間の弁護士に対する敬意や信頼は失われてしまうと思います。

 

弁護士会費が高いのは自治制度が原因

 

また、阿部名誉教授は懲戒手続きの厳格化や、処分基準の明示を求めています。これも全くその通りです。私が知る限りでも、たとえばアメリカで弁護士懲戒処分の基準となるアメリカ法曹協会(ABA)の 「法律家職務模範規則」は、日本語訳が実質150頁程度あるはずですが、これを模範にして作られた日本の弁護士職務基本規程は、わずか10頁と少しと10分の1程度しかありません(とても「模範にした」とは言えません)。これでは弁護士からしても、一体どのような行為が許されて、どのような行為が許されないのかが、わからないはずです。

 

しかし、現在の懲戒手続きを厳格化し、細かい処分基準を作って運用するには、膨大なコストがかかるでしょう。阿部名誉教授が「法治国家にふさわしくない」と評する懲戒制度を維持するのでさえ、弁護士の間には、「弁護士会費が高すぎる」との不満が渦巻いています。弁護士会は、弁護士会費が他の士業に比べて高い理由は、自治制度にあると説明しています(LIBRA Vol.15 No.11 2015/11 2〜3ページ)。

 

「互助組織」には、懲戒手続き厳格化は難しい

 

阿部名誉教授の提案のなかには、「懲戒請求濫用には簡易却下を行う」など、多少のコスト削減につながるものもありますが、懲戒請求を濫用しているのは一部であると思います。多くの人は、法という、使いようによっては暴力ともなる力を持つ弁護士に対して、他になすすべなく、やむを得ず多大な時間や手間をかけて、懲戒請求をしているものと感じています。訴状を書き慣れている弁護士には、一般の人間が実際に懲戒請求にまで踏み切ることの負担がどれだけ大きいものか、その背景にどれだけ大きな弁護士に対する不満があるのか、あまり理解されていないようにも感じます。

 

そして現在の懲戒制度を維持するのですら、弁護士から不満が出るほどのコストがかかっているのですから、これを厳格化した場合に、弁護士がコストを負担できるかどうかは疑問に感じます。少なくとも、事実上は互助組織の色彩が強くなっている現状の弁護士会には、そのようなことまでして懲戒手続きを厳格化する動機は全く働かないのではないでしょうか。

 

一定の費用負担で申立濫用を防止

 

「自治」という、言うは易く行うは困難な本質的な制度矛盾、そしてコストの面でも困難性を抱える現在の懲戒制度を続ければ、いずれ弁護士の信用が損なわれ、弁護士にとっても不利益になる可能性があると思います。それよりも、懲戒権を法務省や裁判所に返上する、あるいは弁護士を監督する第三者機関を設置(イギリス方式)して、弁護士がなるべくコストを負担せずに弁護士の信用を得る。そうすることが、今後弁護士にとっても利益のある方法になるのではないかと思います。

 

たとえば第三者機関方式であれば、懲戒請求申立に対して一定の金銭負担を定めることについても理解が得られやすいでしょうし、それは濫用申立の防止や、制度運用のコスト面での改善、自治制度運用の困難性解消にもつながるのではないかと思います。「時には国家とも裁判で闘うことがある」という、弁護士の立場も守れるでしょう。そのようなメリットをあえて捨てるまでして、自治権をどうしても手放したくないとの動機が弁護士会にあるのだとすれば、それは何か特別な理由があるからでではないかとしか、非法曹の人間には感じられないのです。

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