福岡県弁護士会・上地和久副会長が語った「ローカルルール」

弁護士側の反論内容は「教えません」

福岡県弁護士会館
 福岡県弁護士会が11億円をかけて建築して、
2019年から入居している弁護士会館

原田直子・日弁連副会長が主催者として出席したシンポジウムで居眠りをした件について、懲戒請求を通じて、偶然わかったことがあります。

それは、福岡県弁護士会が、綱紀審査において以下の内容のローカルルールを独自に適用し、懲戒請求の綱紀審査が、懲戒請求された弁護士にとって有利となるような運用をしているということです。

福岡県弁護士会の綱紀審査ローカルルール

・福岡県弁護士会は、対象弁護士が書いた答弁書(懲戒請求への反論)を懲戒請求者に送付しない

・答弁書のコピー(謄写)申請は、答弁書が出されてから、綱紀委員会が議決するまでの間しか受け付けない。しかし福岡県弁護士会は、答弁書が出されたかどうかを懲戒請求者に教えない

・懲戒請求者が対象弁護士の答弁書をコピーできるのは、福岡県弁護士会が許可した場合に限られる

(2020年10月15日 福岡県弁護士会・上地和久副会長(電話談))

以上のルールの下では、懲戒申請した人は、対象弁護士の答弁書提出日や綱紀委員会の議決日が「わからない」のに、その「わからない期間」にしか、弁護士会へのコピー申請ができないということになります。つまり、答弁書を見られるかどうかは「運次第」であるうえ、運良く申請できたとしても、福岡県弁護士会がコピー申請をを許可しない可能性が十分あるということです。

東京弁護士会は綱紀委員の名前を非公開化

このようにして、福岡県弁護士会においては、懲戒請求者が対象弁護士の答弁には反論することができない状態にしたうえで、綱紀委員会の議決がされるのが、常態化しているようです。この点に限っては、答弁書を懲戒請求者に送付する東京弁護士会のほうが手続きの公平性・透明性は高いといえます。

本来、公正な懲戒請求の審査を行うには、懲戒請求者と懲戒請求された弁護士が互いに反論を尽くすことが必要ですから、審査する立場にある福岡県弁護士会は、提出された書面を相手方に見せるべきです。しかし、福岡県弁護士会はそうしていません。

福岡県弁護士会は、懲戒請求者が提出する書面は無条件で対象弁護士に見せているのに、対象弁護士が提出する書面は懲戒請求者に見せていないのです。このような運用は、懲戒申請を審査する機関としての公平性を欠いています。懲戒請求の審査をする立場にある福岡県弁護士会は、懲戒請求者と懲戒請求された弁護士を対等に扱わなければならないのに、弁護士を優遇しているわけです。これは、懲戒請求者の再反論する機会を奪い、懲戒請求された弁護士に有利に働いています。

また事後的にも、弁護士側の答弁書が秘密のままであれば、福岡県弁護士会の綱紀委員会の判断が正しいものであったのかどうかを、誰も客観的に判断することができません。

なお、懲戒制度にローカルルールがあるのは、福岡県弁護士会だけではありません。たとえば東京弁護士会ではごく最近、議決書において、議決書を作った綱紀委員の名前を隠すという運用を始めました。平成30年9月21日の議決書には綱紀委員の名前が記されていますが、その後の議決書(たとえば令和元年12月20日の議決書)では、「東京弁護士会綱紀委員会第二部会部会長職務代行副部会長(記載省略)」と書かれているだけであり、綱紀委員の名前が隠されています。この点に関しては、議決書に綱紀委員会部会長の氏名を記載する福岡県弁護士会のほうが、今のところは透明性が高いと言えます。

失われていく懲戒審査の公正性

なお、上記の「福岡県弁護士会の綱紀審査ローカルルール」について上地和久・福岡弁護士会副会長から説明を受けた際に、当方が「それでは対象弁護士の答弁書は見られないということですか」と問うと、上地副会長は「見たいなら、日弁連に異議申し立てをして、日弁連にコピー申請してください」と答えました。この上地副会長の言葉には、懲戒という弁護士自治制度を担う組織の責任者としての自覚の乏しさが、よく表れていると思います。

阿部泰隆神戸大学名誉教授は、『判例時報』2020年8月21日号特別寄稿「弁護士の懲戒処分に対する救済制度の違憲・違法性と是正策の提案」で、懲戒される弁護士の観点から、「弁護士懲戒制度は行政法であるのに、行政法としては不備が多数あって、法治国家にふさわしいものではなく、違憲であり違法である」と論じておられます。

しかし懲戒を申し立てる側から懲戒制度を見ると、弁護士懲戒制度は、もっと別次元での問題も多く抱えているように思われます。それは、懲戒審査制度の運用レベルでの「劣化」です。

各弁護士会はこれまで、弁護士自治という理念の裏付けとなる懲戒審査の公正性や透明性を担保するため、自主的に、裁判と似た仕組みで懲戒・綱紀審査を運用してきました。法律で定められているから、そうしていたわけではありません。

そこで、法律に定めがないことをよいことに、各弁護士会は、答弁書を見せないようにしたり、綱紀委員の名前を隠蔽するようにするなど、運用レベルの変更を懲戒制度に少しずつ加えているのです。弁護士会が懲戒審査結果の責任を問われることを避けるためです。

そのような運用変更を監督する機関は、日本には存在しません。弁護士には自治が認められているからです。「弁護士の利益団体」であると同時に「監督機関」でもあるという弁護士会の根本的な矛盾が、弁護士会の懲戒審査運用に避けられない「劣化」をもたらしつつあると言えます。

今後も、弁護士会の懲戒審査の不透明化、隠蔽化は進むでしょう。それは「弁護士自治なんて無理!」という、弁護士会の悲鳴でもあるように見えます。

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