弁護士の篠田奈保子氏、自分への懲戒請求を”脅迫”で抑え込む

ツイッターで一般人に対し訴訟を示唆

篠田奈保子
ツイッターで自分への懲戒請求を抑え込むことに成功した篠田奈保子氏

2021年6月10日、ツイッターの一部で、弁護士の篠田奈保子氏(釧路弁護会・はるとり法律事務所・右写真)について、弁護士会に懲戒請求をしようとする動きがありました。しかし篠田氏はこの動きに対して訴訟を提起する姿勢を示し、懲戒請求を抑え込むことに成功した模様です。

篠田奈保子氏は、以下のツイートにより、懲戒請求をした人と、懲戒請求を呼びかけた人に対して、訴訟を起こす意向を表明していました。

このツイートを受けて、以下のように、篠田氏に関する懲戒請求をやめるように、呼びかけが行われました。

このようにして、篠田奈保子氏は自分への懲戒請求の動きを抑え込むことに成功しました。

裁判自体が「脅し」になる

弁護士ではない一般の人は、弁護士から「訴訟を起こすぞ」と脅されたら、訴訟提起が正当なものであるか否かにかかわらず、引き下がらざるを得ないのが普通です。一般人にとっては、訴訟は応じるだけで大きな費用と手間がかかるものだからです。訴訟という「武器」を常に持ち歩き、使いこなしている弁護士に比べれば、一般人は「丸腰」です。

ある弁護士は、次のようなツイートをしています。

この中村剛という弁護士は、弁護士になったお陰で、自分のために簡単に裁判を起こせるようになったので「弁護士やってて良かった」と述べています。これは裏を返せば「弁護士でない一般人は、普通は泣き寝入りするしかない」ということです。一般人と弁護士は、司法判断へのアクセスの容易さにおいて大きな格差があるのです。

法律は、国家権力を背景にして自分を守り、相手と戦うための強力な「武器」です。武器は、悪用すれば罪のない人を傷つけます。ですから、武器の携帯を許された警察官や軍人などは、武器を持たない相手にそれをむやみに使用すべきではないと教えられます。

本来なら、法律という強力な武器の携帯を許された弁護士も、それをむやみに一般人に対して使用しないよう、節度を持って行動しなければなりません。しかし上述の通り、中村剛という弁護士は、弁護士になったおかげで「自分のために簡単に裁判を起こせるようになった」と喜んでいます。これは、ピストルの携帯を許された警察官が「知り合いをピストルで脅せるようになった」と喜ぶのと同じです。中村剛氏は、法曹資格を有する人間としての自覚に欠けている、無邪気な弁護士だと言わざるを得ません。

弁護士による一般人への「武器使用」

そして問題なのは、篠田奈保子氏がしたように、弁護士が「懲戒請求したら訴訟を起こすぞ」と一般人を脅して、自分への懲戒請求を抑え込むような行為は、正当なのかということです。

懲戒請求制度では、一般人が、ある弁護士について弁護士会へ懲戒を請求するわけですから、必然的に、一般人と懲戒請求された弁護士が対立関係になります。

そこで、懲戒請求された弁護士の「武器使用」、すなわち「懲戒請求した一般人への逆訴訟」を認めてしまえば、懲戒制度は機能しなくなってしまいます。弁護士は、丸腰の一般人を「懲戒請求したら訴訟を起こすぞ」と脅すことによって、簡単に抑え込めることができるからです。弁護士と違い、大きなコストと時間を割かなければ訴訟対応できない一般人は、弁護士の「訴訟を起こすぞ」という脅しに、普通は対抗できません。

懲戒請求への「嫌がらせ」を容認した最高裁

しかし、「懲戒請求した一般人への逆訴訟」に関しては、なんとこれを認めてしまった最高裁判決があります。

懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成する。

最高裁判所第三小法廷「平成19年4月24日判決」裁判長上田豊三

この2007年(平成19年)に下された判断により、一般人にとって、弁護士の懲戒請求を申し立てることは、逆に損害賠償請求される危険のある、危険な行為であることになりました。一般の人は、自分が逆訴訟されるかどうか、つまり「弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くかどうか」について、司法がどう判断するか、予測できないからです。

そして、この最高裁判決があるおかげで、今回、篠田奈保子氏は、「逆訴訟」の意向を示すことによって、自分に対する懲戒請求を簡単に封じ込めることができたのです。

最高裁が、「逆訴訟」を認めたのは、単なる嫌がらせ目的で懲戒請求が行われることを防ごうとしたのかもしれません。しかしそれによって、懲戒請求された弁護士が、懲戒請求した人に嫌がらせすることも可能になってしまったのです。

仮に嫌がらせ目的で懲戒請求が行われたとしても、弁護士会はそれらを粛々と却下すればいいだけのことではないのでしょうか。そうすれば「損害」など発生しません。最高裁の上田豊三氏は、なぜ当時、上記のような逆訴訟を認める判断をしてしまったのでしょうか。しっかりしていただきたいものです。

「悪い知らせを伝えた人を責める」仕組み

そもそも懲戒請求は、弁護士によって被害を受けた人を救済するための制度ではありません(実際に、懲戒制度では救済されません)。それどころか、懲戒請求は弁護士のためにある制度であると言えます。「弁護士自治」という特殊な仕組みの正当性を担保するために、一般人の協力を得るのが、懲戒請求制度の目的だからです。

それは、橋下徹弁護士が被告となった「光市母子殺害事件弁護団懲戒請求事件」の最高裁判決で、以下のような意見が補足されていることからもわかります。

弁護士に対する懲戒については,その権限を自治団体である弁護士会及び日本弁護士連合会に付与し国家機関の関与を排除していることとの関連で,そのような自治的な制度の下において,懲戒権の適正な発動と公正な運用を確保するために,懲戒権発動の端緒となる申立てとして公益上重要な機能を有する懲戒請求を,資格等を問わず広く一般の人に認めているものであると解される。

最高裁判所第二小法廷「平成23年7月15日判決」裁判官竹内行夫の補足意見

弁護士の自治制度は、外部機関の関与をほぼ完全に排除した「絶対的自治」です。これは弁護士が自分で自分を律しなければならず、外部の監督がほとんど働かない点において、特殊であり、また腐敗が起きやすい仕組みでもあります。

そして、この特殊で、「お手盛り」に陥りやすい自治制度において、公正な運用を確保するために、懲戒制度はあるのです。一般人には、懲戒請求を通じて「悪い弁護士」の存在を弁護士会に知らせ、自治を適切に運用させる役割が期待されています。一般人は弁護士の行状を把握できる立場にあるからです。

しかし、最高裁・上田豊三氏の判断によって、現在の弁護士の懲戒制度は、言わば「悪い知らせを伝えた人を責める」制度になってしまいました。それにより、弁護士会が国家機関の監督を排除して自治制度を運用することの正当性は、大きく損なわれたのです。

一般人を「泣き寝入り」させる弁護士自治

以上のように考えてみると、最高裁判決により、弁護士の懲戒制度は、一般人からすれば「一銭の得にもならないのに、逆訴訟されるリスクを負わされて、弁護士自治の体裁を保つために協力する制度」になったと言えます。

一部の悪徳弁護士から被害を受けた人は、被害を訴える手っ取り早い手段として、費用がかからない懲戒請求を考えがちです。しかし、逆訴訟を容認した現在の司法運用において、懲戒請求をすることは、非常に危険なことです。何も見返りが期待できないのに、訴訟の被告になるリスクだけを背負うことになるからです。

つまり、現在の司法運用において、訴訟対応が難しい一般人は、一部の悪徳弁護士の被害を受けても「泣き寝入り」するしかないということです。そしてこのような現状は、弁護士会が一生懸命守ろうとしている「弁護士自治制度」がもたらしているものなのです。

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