日弁連・荒会長により子と引き離されて死んだ母

がんの治療中に息子を連れ去られる

夫の代理人となった荒氏
荒 中 あら ただし 日弁連 日本弁護士連合会 会長
母子を引き離す仕事をしていた、荒 中(あら ただし)日弁連会長

2019年8月、がんで余命宣告を受けていたある母親(B子さん)が、息子と月にわずか1回、1時間だけ会うことを、仙台家庭裁判所で認められました。B子さんは、がんの治療中に、当時小学生の息子を夫によって夫の実家に連れ去られ、会えなくなっていていたのです。

そして、B子さんの夫の代理人として、余命わずかなB子さんと息子を引き離す仕事を請け負っていたのが、現在、日本弁護士連合会会長を務める荒 中(あら ただし)氏であったことが、『家庭の法と裁判』(日本加除出版)2021年8月号(P59~66)に掲載された判例から明らかになりました。

荒中氏は、面会交流を命じた仙台家裁の決定には従わず、即時抗告をしました。既に宣告された余命を超えていたB子さんは、抗告を受けてどう感じたでしょう。そしてB子さんは、荒中氏による母子引き離しに負けず、息子に会うことができたのでしょうか。

本記事では判決文と調査に基づき、一連の経緯を明らかにしておきたいと思います。

息子は「母と離れてから、母への気持ちが変わった」
家庭の法と裁判 2021年8月 荒 中 あら ただし 日弁連 会長
荒 中氏が面会交流を認める保全処分に対し即時抗告をした判例が掲載された『家庭の法と裁判』2021年8月号

B子さんが息子と引き離された経緯は、次の通りです。

B子さんは2008年に結婚して息子をもうけましたが、がんが見つかり、2017年3月に食道の全摘出手術を受けます。術後も治療が続くなか、2017年8月、B子さんの反対にもかかわらず、夫が子供を連れ去り他県の実家に転居したため、B子さんは息子と会うことができなくなりました。

そこでB子さんは息子の小学校の下校時間に学校に行ったり、手書きのノートを渡したりするなどして、息子と連絡を取ろうとしましたが、夫に拒まれました。B子さんは面会交流調停も申し立てましたが、夫側は応じません。

連れ去りから約1年後に行われた裁判所の調査官調査(1回目)において、息子は母親への情愛を示しつつも「(連れ去られる前は)母のことが好きだったが、(夫の実家に)引っ越してからは母への気持ちが変わった」と答えています。

「余命告知」で重い腰を上げた仙台家裁

荒中氏側は面会交流の「話し合い」も拒否
仙台家庭裁判所
1回目の面会交流調停では動かなかった仙台家裁も、母親の余命告知を受けてようやく動いた

その後もB子さんの病状は悪化し、2019年はじめには、主治医から余命が1~3か月であるとの告知を受けます。

自分に残された時間が短いと感じたからでしょうか、B子さんは7回の期日を重ねていた面会交流調停は取り下げて、夫の実家の近くに転居します。そして病身を押して、息子が通う小学校に何度も行き、直接会おうとします。しかし、警戒していた夫に妨害されて、一度手紙を渡すことができただけでした。

B子さんは、夫の代理人の荒中氏にも、面会交流について話し合うよう求めましたが、話し合いすら実現しませんでした。

そこでB子さんは、2019年4月に2度目の面会交流調停を申し立てて、今度はその「保全処分」も申し立てます。保全処分とは、緊急の必要がある場合に、暫定的な決定をするよう裁判所に求める手続きです。B子さんは、自分が余命宣告を受けていることを理由として、家裁に急いで判断をするように求めたものと考えられます。

「祈祷師が『お母さんはあなたを大事に思っていない』と言った」

再度の調停申し立てにより行われた2度目の調査官調査では、1回目と違い、B子さんの息子は「(母親に)会いたくない。声も聞きたくない」と、B子さんを拒絶する態度を示しました。この時点で、連れ去りから約2年が経過していました。

一方でB子さんの息子は「(母がノートを渡したことについて、父や祖母は)何を考えているんだと言っている」「祈祷師が『お母さんはあなたを大事に思っていない』と言った」「(B子さんに会うと)霊的なものがくっつくと困る」などと調査官に話しています。

これらの発言内容から、B子さんの息子は、B子さんの夫や義母を含む周囲の大人に影響されて、いわゆる「PAS」(片親引き離し症候群:Parental Alienation Syndrome)になり、母親を拒絶するようになった可能性が高いものと考えられます。

荒氏側は「月1回1時間」の母子面会を拒否

荒中氏は「B子さんは夫への感謝が足りない」と主張
仙台家庭裁判所 草野真人 所長
仙台家庭裁判所長の草野真人(くさの まさと)氏。「家事事件を通して、裁判官として鍛えられてきた」とのこと。

結局、仙台家庭裁判所の栗原志保裁判官は、保全処分の申し立てから4か月後の2019年8月14日に、B子さんと息子の面会交流を認める仮決定をようやく下しました。通常は面会交流には緊急性を認めず、仮処分を出さない家庭裁判所も、B子さんが余命宣告を受けているという事情を考慮したのだと考えられます。

仮決定の内容は、わずか「月1回1時間」しかも「夫が指定する人の監視付き」という残酷なものでした。ただ余命を自覚していたであろうB子さんにとっては、この決定は最後の生きる希望だったのではないでしょうか。

ところが夫側代理人の荒中氏は、この家裁の判断を不服として仙台高等裁判所に即時抗告をしたのです。

もちろん、B子さんの夫とその代理人の荒中氏は、抗告できる立場にあります。しかし、宣告された余命を過ぎた母親に対して、決定が出るまで数か月かかる抗告手続きを取るのは、事実上「子供を会わせない」という意思表示です。これはあまりに非人道的なのではないでしょうか。B子さんは、息子に会うという、母親として正当で、ささやかなことを望んでいただけなのです。

しかし荒中氏は、抗告審では「息子がB子さんを拒否するのは、B子さんの夫に対する感謝が足りないせいだ」などと不可解な主張をして、仮決定に反論しました。

なぜ弁護士は倫理違反を起こすのか

「利益実現」と「従属」の違い
親権 子供 争い 弁護士倫理 悪徳
子供をめぐる争いを利用して収入を得ることは、弁護士倫理に違反する

弁護士には、依頼人の利益を実現する義務があります。しかし、弁護士が「依頼人の利益のために仕事をすること」と「依頼人に従属すること」は違います。

たとえばB子さんのケースで荒中氏は、夫の代理人として、面会交流に関する話し合いを拒み、面会交流調停では母子を会わせないことを主張したうえ、面会交流すべきとの保全処分に即時抗告までしています。荒中氏は、依頼人の「子供を相手に会わせたくない」との意向に従うことが依頼人の利益だと考えて、依頼人の意向に従ったのかもしれません。

しかし、子供と他方の親の面会交流を拒むことは、依頼人の利益ではありません。そうしても、依頼人に何の利益ももたらさないからです。

親子引き離しは民法や条約に違反する

荒中氏は、あたかも「面会交流をすると、依頼人の子供への支配権が侵害される」かのように考えて、「面会交流を拒むことが依頼人の利益になる」とでも考えたのでしょうか。しかし、このように子供を支配や所有の対象としてモノ扱いすること自体が、子供の権利を侵害する違法なものです。

面会交流は、その多寡を父母で争うべきものではなく、子供の福祉のために、実現し充実させる方法を父母で話し合うべきもの。それが民法766条の趣旨であると言えます。親子の引き離しは、親子の不分離を定めた国連子供の権利条約にも違反します。

荒氏は面会交流実現に努力をしたか

面会交流事件の特徴は、その最大の利害関係者が、当事者(父母)ではなく、当事者外の子供であるということ。そのため、依頼人に従属する弁護士は、面会交流を父母の争いの具にするという倫理違反を犯しやすいのです。一部の悪徳弁護士は、夫婦の争いに意図的に乗じて、子供の連れ去りをしたり、面会交流を阻んだりして、収入を得ています。

荒中氏は面会交流事件を受任したのであれば、依頼人の意向に従属せず、依頼人を説得して面会交流の協議に応じさせるべきでした。そして子供がPASの状態になっているのであれば、母子がその状態を乗り越えて直接会えるようになる方法を提案するなどして、面会交流の実現に努力すべきでした。もし依頼人が違法な要求を曲げないのだとしたら、違法行為の先棒を担がずに、代理人を辞任するべきでした。

なぜ裁判に頼るのは危険なのか

親子関係は「時間」がすべて
家庭裁判所 調停
時間ばかりかかる調停は、親子関係を壊す原因の一つ(写真は裁判所HPより)

また、抗告審の判決文からは、司法システムの問題も浮かび上がってきます。

B子さんの息子は、B子さんと別居してから1年後と2年後の2回、裁判所の調査官調査を受けています。そして、2回目の調査時点では、1回目の調査時よりも強く母親を拒絶するようになっています。

そして、そのような息子の変化は、周囲の大人の影響によって起きたことが、調査官に対する「父や祖母は・・・」「祈祷師は・・・」といった上記の発言からうかがえます。

このことからも明らかなのは、親子関係を維持するには「時間」こそが最も重要であるということです。判断に時間をかけるだけで、親子関係の悪化という、子供に対する権利侵害が起きるからです。しかも、時間経過により一度損なわれた親子関係は、容易に修復できません。

年単位の時間がかかる家裁決定

子供の成長や変化は、非常に早いものです。ですから本来、親子関係を維持するには、子の連れ去りに対しては「数日」レベルの時間で、司法システムが迅速に対応する必要があります。しかし、そのレベルでの対応が期待できる警察や検察は、連れ去りに実子誘拐として対応することを怠ることが多いようです。

家庭裁判所の面会交流調停は、暫定的な決定(保全処分)を出すのにも数か月かります。しかも、通常は保全処分が認められないので、決定が出るまでに年単位で時間がかかります。ですから面会交流調停は、むしろ親子関係を壊してしまっていることも多いと言って過言ではありません。

面会交流調停のために会えなくなる

B子さんも、1回目の面会交流調停を、申し立ててから1年2か月後(7度目の調停期日)にいったん取り下げています。家庭裁判所には「調停中、親が子供に直接会いに行く行為は、調停や審判でマイナスにカウントする」という、悪しき慣習があります。直接子供に会いに行くと、裁判手続きで不利になる可能性があるのです。そのためB子さんは、余命宣告を受けて、自分で子供に直接会いに行くことを決意した際に、その足枷となる調停は取り下げたものと考えられます。

このように、子供と引き離された親は、一旦、面会交流調停を申し立てると、親権を持つ親でも、子供に直接会いに行くことを自制せざるを得なくなります。この点でも、面会交流調停は、「親子を会わせるための制度」ではなく「親子引き離しを公認するための制度」となっています。これによって一定期間、親子が会えなくなることは、親子関係にとって致命的です。

本来なら、すべての面会交流調停について、迅速な保全処分が認められるべきなのです。決定までに時間をかけること自体が、親子関係を壊し、子供に対する権利侵害をもたらすからです。しかし、通常の面会交流調停で保全処分が認められることは少ないようです。それは、家裁の裁判官に、子供の気持ちや心理への配慮が欠けている証拠です。

面会交流調停という名の親子分離システム

「火をつけて逃げる」家庭裁判所
マッチ 時間 親子関係 家庭裁判所
時間という名のマッチで親子関係に火をつける家庭裁判所

以上のように家庭裁判所は、面会交流に迅速な保全の判断をするどころか、逆に、面会交流調停に時間をかけて、その間は子供と会うことを自制するように親へ圧力をかけます。そうすることによって一定期間親子を引き離し、親子関係を壊しておきながら、親子関係が壊れた後に調査官調査を行い、「ほら、子供があなたを嫌がっているでしょう」として、親子が直接会う形の面会交流を認めないことすら多いのが家裁の現実なのです。

B子さんのケースでも、連れ去りから2年後に行われた2度目の調査官調査の時点で、子は母を拒絶するようになっていましたから、母親が余命宣告を受けていなければ、母子の直接の面会交流は認められていなかったかもしれません。

つまり、家裁がしていることは「マッチポンプ」どころではありません。時間という名のマッチで親子関係に火をつけておきながら、その火事を自分では消さずに、責任を親に押し付けて、逃げてしまっているのが現状なのです。調停に時間がかかったために親子関係が壊れても、家裁は何も配慮しません。

問われる裁判官の倫理観

B子さんが2回目の面会交流調停で仮決定を受けられたのは、皮肉なことに、がんで余命を宣告されたお陰であったと考えられます。しかし上述の通り、仙台家庭裁判所の栗原志保裁判官が決定した面会交流は、わずか「月に1回1時間」という内容でした。

おそらく栗原裁判官には、B子さんの1回目の長い面会交流調停がB子さんと息子の関係を壊したという自覚もないのでしょう。そして余命わずかの母親に対して、このような貧しい内容の面会交流しか認めなかった栗原志保裁判官の判断は、世の中の一般的な道徳観や倫理観からは、かけ離れたものであると言えます。

B子さんの"勝訴"とその後

“子供を連れ去った者が勝つ"世界

現在、夫婦が別居したり、離婚したりした後の親子関係は「法の支配」が及ばない世界となっています。「子供を先に連れ去り、実効支配したものが勝つ」という実行力、つまり暴力が支配する世界です。そのため、B子さんの例からもわかるように、病気になるなどの事情で、実力で対抗できなくなった親は、子供の引き離しに対して、なすすべがありません。

余命わずかのB子さんが、家裁から「1か月に1時間しか息子と会うことを認めない」との決定を突き付けられたときに感じた絶望は、どれほどだったでしょう。さらに、その決定を相手方の弁護士が無視し、即時抗告まですると知ったときにはどう感じたでしょうか。法律と家裁の運用が変わらない限り、今後も同じ悲劇が繰り返されるでしょう。

面会交流調停の取下げで得た「息子との時間」
面会交流の保全処分確定日がB子さんの命日となった

上述の通り、荒中氏側は仙台家裁の仮決定に従わずに即時抗告を申し立てていましたが、2019年10月4日、仙台高裁がこれを棄却したため、「月に1回1時間の面会交流」との仙台家裁の仮決定が確定しました。極めて貧弱な内容であるとはいえ、B子さんは形の上では一応、"勝訴"したわけです。

そして、仙台高裁で面会交流の仮決定が確定した当日に、B子さんが亡くなっていたことが、本会の調査でわかりました。B子さんが最初に面会交流調停を申し立ててから約2年、保全処分の申し立てをしてからは約半年が経過していました。抗告棄却の知らせは、B子さんの耳には届いたのでしょうか。

B子さんにとって、息子との最後の時間となったのは、亡くなる8か月前、B子さんが1回目の面会交流調停を断念し取り下げて、自ら下校時間に小学校へ行き、息子に手紙を手渡した瞬間でした。面会交流調停などの裁判所の手続きは、何の役にも立ちませんでした。

抗告が棄却された荒中氏も、B子さんと息子の再会を阻止したという点では、実質的に「勝った」と言えるのかもしれません。しかし「息子に一目会いたい」という母親の最期の希望を砕き、子供にとっては一生の心の傷となるかもしれない母子断絶を実行し、そうした仕事で弁護士報酬を受け取って、恥ずかしいとは感じないのでしょうか。

B子さんのご冥福を、心よりお祈りいたします。